東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)167号 判決
一 請求の原因一ないし三(特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨、審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。
二 取消事由に対する判断
1 本願考案の概要
右本願考案の要旨及び成立に争いのない甲第二号証の一ないし三(本願考案の実用新案登録願、昭和六〇年三月四日付手続補正書及び昭和六〇年一二月一三日付手続補正書。以下、これらを総称して「本願明細書」という。)によれば、本願考案は、重量物、主として荷役車両、建設車両等の自走式重量物の運搬車両に関するものであつて、従来ブルドーザ、シヨベルローダ等の自走式重量物を積卸し、運搬するための重量物運搬車両は種々提案されていたが、例えば、本願明細書第7図のような傾動荷台とランプフレームが互いに重合状態でシヤシフレーム上に搭載されている従来のものは、(a)傾動荷台の傾動時に、その傾動荷台がシヤシフレームの前部に長く、しかも高く張り出すので、積卸時に運搬車両自体が不安定となり、軟弱地、荒地等の地盤の悪いところでは運搬車両の転倒事故を起こす虞があり、また屋内等の車両上方空間に余裕のないところでは使用できない、(b)車両の走行状態では、車両自体の重量が大きくなり、その結果として重量物の積載重量が減じ、さらにランプフレームは重量物の積卸時のみしか使用されないので、無駄が多く構造が複雑になるとともにコスト高になる、等の不具合があつたことから、本願考案は、これらの不都合を解消し、構造簡単で作業能率の高い重量物運搬車両を提供することを目的として、前記本願考案の要旨記載のとおりの構成を採用したものであることが認められる。
そして、右甲第二号証の一ないし三によれば、本願明細書には、本願考案が前記本願考案の要旨記載のとおりの構成を採用したことによる効果として、次の旨の記載の存することが認められる。
(1) 前部水平荷台が後退位置にあるときには、後部傾動荷台は後端部が接地するよう後下がりに傾動して、地上と前部水平荷台とを接続する傾斜路を形成するので、運搬車両の荷台前部をシヤシフレーム上に大きく傾動させることなく重量物をスムーズに積卸しすることができ、したがつて重量物積卸作業を安全に遂行することができ、軟弱地、荒地等の地盤の悪いところでも運搬車両の転倒事故を生起する危惧はなく、また屋内等の車両上方空間に余裕のないところでも重量物の積卸作業が可能である。
(2) 前部水平荷台が前進位置にあるときには該前部水平荷台と後部傾動荷台とがシヤシフレーム上に連続した略水平な荷受面を形成するから、結局、運搬車両の通常走行時と重量物積卸時とのいずれの場合にも、前部水平荷台と後部傾動荷台は互いに重合することなくそれぞれが荷台として常に有効に利用され、全体として前後方向に長い有効荷受面を確保することができる。
(3) 特に後部傾動荷台は、それがシヤシフレーム上へ搭載される際には前部水平荷台と共に前方へ移動するので、その最前進位置では該後部傾動荷台の前端部を車両最後部の車輪位置よりも前方に位置させることが可能であつて、後部傾動荷台自身を該車輪に干渉させることなく前後方向に長く形成でき、したがつて該荷台に長大なランプフレームを特設せずとも重量物積卸時の後部傾動荷台の勾配を緩くできて重量物の積卸作業を無理なく行わせることができる。しかも、後部傾動荷台は、最前進位置においてはその前進移動分だけ後方へのオーバハング量が抑えられるから、車両を前後方向にコンパクト化するうえで有利である。
(4) 前部水平荷台と後部傾動荷台とよりなる連結荷台全体を駆動するスライドシリンダ等の駆動装置は、前部水平荷台の前後移動ストロークに相当する、該連結荷台全長に比べ著しく短い距離を作動ストロークとすれば足りるから、駆動装置の小型化を達成することができ、したがつて後部傾動荷台に長大なランプフレームを特設する必要がないことと相俟つて、車体重量の軽減、ひいては車両の最大積載重量の増加に大いに寄与し得る。
2 引用例1に記載の考案の概要
引用例1には、渡り板を、該渡り板を前後に強制移動させる往復動機構を介して荷台に連結し、前記渡り板が、その前進位置にあるときには、略水平な荷受面を形成し、また、その後退位置にあるときには後端部が接地するよう後下がりに傾動して地上と接続する傾斜路を形成してなる車両輸送車の車両積み降し装置(別紙図面(二)参照)が記載されていること、引用例1に記載の「荷台」「渡り板」「往復動機構」はそれぞれ本願考案の「シヤシフレーム」「連結荷台」「スライドシリンダ等の駆動装置」に相当すること、本願考案と引用例1に記載の考案との一致点及び相違点が審決の認定のとおりであることについては、当事者間に争いがない。
そして、更に成立に争いのない甲第三号証(引用例1)によれば、引用例1に記載の考案は、貨物自動車あるいは貨客自動車等に対する小型車両の積卸装置に関するもので、労力を必要としないでしかも安全に積卸しができる簡単な装置を得ることを目的とするものであることが認められる。
3 引用例2に記載の考案の概要
引用例2には、シヤシフレーム上に固定された固定荷台と、この固定荷台の後端部に軸杆を以て前端部が上下に傾動可能に連結された可動荷台とにより荷台を形成し、前記可動荷台が常時は水平に保持されて荷台の一部をなし、荷役時には下降方向に傾動して傾斜路を形成してなるトラツク荷台(別紙図面(三)参照)が記載されていること、引用例2に記載の「固定荷台」「軸杆」「可動荷台」はそれぞれ本願考案の「前部水平荷台」「ヒンジ金具」「後部傾動荷台」に相当するものと認められ、結局、引用例2には、接地されない前部水平荷台と、この前部水平荷台の後端部にヒンジ金具を以て前端部が上下に傾動可能に連結された後部傾動荷台とによりトラツク荷台を構成することが示されていることについては、当事者間に争いがない。
そして、更に成立に争いのない甲第四号証(引用例2)によれば、引用例2に記載の考案は、歩み板降下装置を備えたトラツク荷台に関し、主としてトラクター等重機類の運送に供せしめるトラツクにおいて、荷役時に荷台の後方後が傾動して自重量で降下する補助歩み板と共に歩み板の作用を兼ね、重機類の積卸しに、安全性、作業迅速性の面で、便ならしめたことを特徴とするものであることが認められる。
4 本願考案の容易想到性
(以下においては、各引用例の部材で前記のように本願考案の部材と相当関係にあるものについては、必要に応じ本願考案における部材の名称を用いる。)
本願考案、引用例1に記載の考案及び引用例2に記載の考案の各概要についての前記認定によれば、これらの考案は、いずれも積載物、特に重量物を運搬する車両に関するもので、その積載物の積卸しを安全、迅速に行い得る機能を備えることを目的とした装置であると共に、その車両の荷受面の全部又は一部(本願考案にあつては連結荷台のうちの後部傾動荷台、引用例1に記載の考案にあつては渡り板、引用例2に記載の考案にあつては可動荷台部分。)を傾動させて積載物を移動させる傾斜路とする点で同様の機能を有する車両に関するものであると認められるから、同一の技術分野に属する技術に関する考案であるということができる。
ところで、前記争いのない事実によれば、本願考案と引用例1に記載の考案とは、引用例1に記載の「荷台」「渡り板」「往復動機構」がそれぞれ本願考案の「シヤシフレーム」「連結荷台」「スライドシリンダ等の駆動装置」に相当し、両者は、シヤシフレーム上を前後に移動可能な連結荷台を、該連結荷台を前後に強制移動させるスライドシリンダ等の駆動装置を介してシヤシフレームに連結した点で一致し、本願考案では、連結荷台を、接地されない前部水平荷台と、この前部水平荷台の後端部にヒンジ金具を以て前端部が上下に傾動可能に連結された後部傾動荷台とにより構成し、連結荷台が前進位置にあるときには後部傾動荷台がシヤシフレーム上に搭載されて前部水平荷台とともに略水平な荷受面を形成し、また連結荷台が後退位置にあるときには後端部が接地するよう後下がりに傾動して地上と前部水平荷台とを接続する傾斜路を形成する(以下、「相違点の構成」という。)のに対し、引用例1に記載の考案では、連結荷台を一体の板状部材で構成し、該連結荷台が前進位置にあるときには一体の板状部材で略水平な荷受面を形成し、また連結荷台が後退位置にあるときには一体の板状部材全体が傾斜通路を形成する点で相違するものである。
そこで、引用例1に記載の考案において、「一体の板状部材で構成された渡り板」に替えて、引用例2に記載の考案に示された「シヤシフレーム上に固定された固定荷台と、この固定荷台の後端部に軸杆を以て前端部が上下に傾動可能に連結された可動荷台とから形成される荷台」を、引用例1記載のシヤシフレーム(同引用例の荷台2)上に前後に強制移動させる往復動機構を介して連結する場合には、右置き替えられた固定荷台と可動荷台は軸杆により連結された状態で右シヤシフレーム上を前後に移動することが可能となり、このうち固定荷台は常時水平に保持されて荷受面を形成し、可動荷台部分は固定荷台が前進位置にあるときは水平に保持されて荷受面の一部をなし、積卸時(荷役時)には下降方向に傾動して傾斜路を形成するものであり、引用例2記載の右「固定荷台」「軸杆」「可動荷台」がそれぞれ本願考案の「前部水平荷台」「ヒンジ金具」「後部傾動荷台」に相当するものであることは前述のとおりであるところから、両引用例を右のように組合せることにより、きわめて容易に、本願考案の相違点の構成を得ることができることは明らかである。
原告は、引用例1と引用例2の組合せの困難性を主張する。しかし、前記のとおり、本願考案と両引用例記載の考案は同一の技術分野に属し、引用例2には、常時荷受面となる前方水平荷台(固定荷台)と積載時は荷受面、積卸時は傾斜路となる後部傾動荷台(可動荷台)をヒンジ金具(軸杆)で連結した構成が示され、他方引用例1には、シヤシフレーム上に移動可能な前部水平荷台と後部傾動荷台の機能を備えた前後に移動可能な一体の板状部材である連結荷台(渡り板)の構成が示されているのであるから、後者のシヤシフレーム上に、一体の板状部材である連結荷台に替えて、前者のヒンジ金具で連結された前方水平荷台と後方傾動荷台を設けて、本願考案の相違点の構成を想到することに、さしたる困難はないものというべきである。
5 本願考案の効果の予測可能性
本願明細書には、本願考案が前記本願考案の要旨記載のとおりの構成を採用したことによる効果として、前記1(本願考案の概要)記載の(1)ないし(4)の事項が記載されていることについては、前記認定のとおりである。
このうち、原告は、特に(4)の事項について、その効果の顕著性を主張し予測可能性を否定する。たしかに、引用例1に記載の考案にあつては、重量物積卸時には渡り板全体を傾動させて傾斜路を形成するものであるから、本願考案の連結荷台とその全長が同じ場合には、その全長をシヤシフレーム上に搭載させるに要する移動ストロークが本願考案のものに比べて長くなることは事実である。しかしながら、引用例1に記載の考案における渡り板に替えて引用例2に記載の考案に示された固定荷台と可動荷台とから形成される荷台を用いる場合には、重量物積卸時に傾動させて傾斜路を形成する荷台部分は後部の可動荷台部分のみであるから、同部分を傾斜路として用いるためには可動荷台に相当する長さ分だけ荷台をシヤシフレーム上で前後に移動させれば充分であることは、当業者の容易に予測し得るところであり、右(4)記載の効果も当業者の予測しがたい格別顕著な効果と認めることはできない。
その他前記1(1)ないし(3)の効果も、シヤシフレーム上に引用例1記載の渡り板に替えて、引用例2に記載された軸杆で連結された固定荷台と可動荷台を採択した場合に当然生ずる効果であつて、当業者であれば、きわめて容易に予測し得る効果というべきである。
以上によれば、本願考案が前記本願考案の要旨記載のとおりの構成を採用したことによる前記1ないし4の各効果は、いずれも引用例1及び引用例2に示されたものから予測し得る以上の格別顕著な効果とは認められず、この点に関する審決の判断にも誤りは認められない。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないからこれを棄却することとする。
〔編注1〕本願考案の要旨は左のとおりである。
シヤシフレーム1上を前後に移動可能で且つ接地されない前部水平荷台3と、この前部水平荷台3の後端部にヒンジ金具8を以て前端部が上下に傾動可能に連結され前記シヤシフレーム1上を前後に移動可能な後部傾動荷台7とにより連結荷台Pを構成し、この連結荷台Pは、該連結荷台Pを前後に強制移動させるスライドシリンダ6等の駆動装置を介して前記シヤシフレーム1に連結され、また前記後部傾動荷台7は、前記前部水平荷台3が前進位置にあるときには前記シヤシフレーム1上に搭載されて前記前部水平荷台3とともに略水平な荷受面を形成し、また前記前部水平荷台3が後退位置にあるときには後端部が接地するよう後下がりに傾動して地上Lと前記前部水平荷台3とを接続する傾斜路を形成してなる、重量物運搬車両(別紙図面(一)参照)。
〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。
別紙図面(一)
1…シャシフレーム、3…前部水平荷台、6…駆動装置としてのスライドシリンダ、7…後部傾動荷台、8…ヒンジ金具、L…地上、P…連結荷台
<省略>
<省略>
別紙図面(二)
1は輸送車、2は荷台、3は渡り板、4は積載車両、5は固定装置、6は往復動機構、7は蝶番結合部、8は片効き緩衝器。
<省略>
別紙図面(三)
1は後車輪、2は固定荷台、3は軸杆、4は案内樋、5は補助歩み板、6は可動荷台、7は軸座、8は油圧シリンダー、9はノツチ状凹み、10は係止片、11はレバー、12は角度調節機構。
<省略>
<省略>
(他は省略)